解雇補償はベトナムにおいてどう解釈するべきか

パフォーマンスの悪い従業員にいくらか補償を支払って辞めてもらおうと思っているのですが、ベトナムの法制度について教えてください。

補償を支払ったら合法的に解雇できるというのはベトナムの労働法上にはありませんので、当事者間での話し合いの上、合意退職に持っていくというのが一般的です。

ベトナムでは使用者の一方的な意思表示による労働契約の解除が法律上難しいとされています。単に能力的な問題で解雇通告を出すと不当解雇と扱われる可能性もあるわけですが、今回は解雇したい労働者に支払う補償についての考え方について紹介します。

日本での解雇通告に関する規定

日本の労働基準法20条では解雇予告と解雇予告手当の規定が定められています。特定の条件下にある労働者を除き、労働者を解雇しようとする場合においては少なくとも30日前にその予告をしなければならないとしています(解雇予告)。また30日前に予告をしない場合は30日に満たない日数分以上の平均賃金を支払わなければならないとされています(解雇予告手当)。

例①:労働者に3月31日に退職してもらいたい場合

>>解雇予告を3月1日までにする必要があります。

例②:労働者に3月31日に退職してもらいたいが解雇予告を3月15日にした場合

>>30日に足りない日数(14日分)の平均賃金を最低支払う必要があります。

因みに解雇予告をせず、解雇予告手当も支払わず「明日から来なくていい」と従業員に言った場合、即時解雇が成り立つ条件を満たしていない場合は、その発言が解雇予告とみなされ、そこから30日後か解雇手当手当を支払って退職してもらうことになります。

この解雇予告手当はあくまで30日の期限を前に退職してもらうための補償という意味であり、これを支払えば当然に解雇できるという意味ではありません。

ベトナムで解雇予告手当、解雇補償の制度は?

ベトナムの労働法36条では使用者の労働契約の解約権利について定められています。基本的には上で書いた日本のそれと同様の制度となっており、無期雇用者の場合は退職日の45日前、有期雇用者は30日前に通知しなければならないとされています。使用者側がこの期間前に退職を求める場合は本人の同意がない限り不当となります。またこの場合は日本と同じく同期間中の賃金補償の義務を負わなければなりません(第41条)。

ところで、労働法第36条に使用者による労働契約の解約権利の一つとして「業務完成水準評価基準に従って確定される業務を随時完成させない」というものがあり、労働者のパフォーマンス不足に関する解雇通告はこれが一番近いように思われます。

ただこの「業務完成水準評価基準」は事前に使用者と労働者代表組織により作成されている必要があることや、その基準は明確な基準で、それほど高い設定がされるものではありません。なのでそれなりのパフォーマンスを求める労働者に対して適用させるのは難しいのが実情となっています。

このような事情から単に従業員のパフォーマンスが悪いというだけでは、法令に従って労働契約を解除するのは容易ではないということになります。

基本は合意退職が理想

パフォーマンス不足で退職してもらいたいと思っても、上述のような事情から基本は合意退職で進めるのが理想です。会社からきちんと段取りを踏んで退職して欲しい意向を伝えれば、本人も理解して自ら退職を申し出ることもあります。この場合は補償の話などにはなりませんし、契約解消についてトラブルに発展することもまずないでしょう。

一方意向を示しても本人がどうしても納得しない場合、納得してもらう材料として補償(*名目は様々)を支払うという提案も考えられます。ただ補償の額は法律で定められているものではありませんので、当事者間での話し合いで決められることになります。職位や勤続年数などで金額も変わってくるかと思いますが、退職金の額や労働法41条「労働契約の解約が法令に違反する場合の使用者の義務」において賃金の2カ月以上の支払いが定められていますので、この辺りが一つの参考目安になるかと思います。

以上からパフォーマンス不足で労働者を解雇したい場合において、ベトナムでは補償に当たる金銭を支払ったとしても、使用者が労働契約を解消できる権利を持つというものはありません。あくまで労働者の自主退職における納得材料の一手段と考えておくべきで、お金を払えば解雇できるというわけではないことをご留意ください。

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