「オフィス回帰」は進むのか?

近年、世界中で働き方が大きく変化する中、ベトナムでも「リモートワーク」は避けて通れないテーマとなっています。特にコロナ禍では多くの企業でリモートワークが導入され、働き方の多様性が一気に広がりました。しかし、日本を含め世界的にオフィス回帰の動きが見られる今、ベトナムではどのような状況なのでしょうか。ベトナム人求職者の中でも依然としてリモートワーク支持者が多い昨今、改めてベトナム人にとってのリモートワークの実態と意識についてまとめていきたいと思います。

コロナ禍でのリモートワークの急速な普及

2020年初頭から出た新型コロナウイルス感染症は、ベトナムのビジネス環境にも大きな影響を与えました。特に2021年のデルタ株流行時には、ホーチミン市など主要都市でロックダウンが実施され、多くの企業が在宅勤務への移行を余儀なくされました。

それまでベトナムではリモートワークはIT企業や外資系企業の一部で採用されている程度で、一般的な働き方とは言えませんでした。しかしコロナ禍においては政府の規制も相まって、あらゆる業種でリモートワークが急速に普及しました。このリモートワークは多くのベトナム人が恩恵を実感するところとなります。

通勤時間の削減

交通渋滞が深刻なベトナムの都市部において、通勤時間の削減は大きなメリットでした。家族との時間や自己啓発に時間を費やすことができ、ワークライフバランスの改善に繋がりました。またバイク通勤が大多数なベトナム人にとって、バイクで移動することの負担がなくなることも大きな利点です。

柔軟な働き方

特に子育て中の親にとっては、子供の送り迎えや看病など、柔軟な時間管理が可能になったことで、仕事と家庭の両立がしやすくなりました。

感染リスクの低減

パンデミック下においては、オフィスでの感染リスクを避けられるという点で、精神的な安心感も大きかったと言えるでしょう。コロナが落ち着いた現在でも、体調不良など予期せぬ健康面での問題があった場合に在宅だと仕事を休まず対応しやすい評価を得ています。

もちろん、自宅のネット環境や集中できるスペースの確保といった課題も浮上しましたが、概ね多くの人々がリモートワークの利便性を享受しました。

アフターコロナのベトナム:オフィス回帰の動きと現実

コロナ禍が落ち着き経済活動が正常化に向かうにつれて、ベトナムでも企業がオフィス出勤を再開する動きが見られるようになりました。日本でもオフィス回帰の傾向が報じられていますが、ベトナムの状況はどうでしょうか。

外資系企業と国内企業の温度差

ベトナムにおいて、リモートワークの継続に対するスタンスは企業の種類によって温度差があります。

  • 外資系企業(特に欧米系): グローバルな方針に基づき、引き続きハイブリッドワーク(週に数日オフィス出勤、残りはリモートワーク)や、フルリモートワークを継続する企業が多く見られます。柔軟な働き方を重視し、従業員のエンゲージメント向上や優秀な人材の確保に繋がると考えている企業が多いようです。
  • 日系企業: 日本と同様に、オフィス出勤を基本とする企業が比較的多い印象です。しかし、ベトナム人従業員のニーズに応える形で部分的なリモートワークを導入したり、個別の事情に応じて柔軟に対応したりするケースも増えてきています。日系企業は従業員からの希望を尊重してリモートワークを継続していたり、一度リモートワークが浸透してからまたオフィス出勤に戻すことに対するリスクを考慮してリモートワークを継続しているところが多いように思われます。
  • ベトナム国内企業: 中小企業を中心に依然としてオフィス出勤が主流です。これはマネジメント層の「従業員の顔が見えないと不安」という意識や、リモートワークに必要なITインフラやセキュリティへの投資が難しいといった背景があると考えられます。しかし、優秀な人材の流出を防ぐためハイブリッドワークの導入を検討する企業も徐々に現れています。

オフィス回帰の主な理由

企業がオフィス回帰を選ぶ主な理由としては、以下が挙げられます。

  • コミュニケーションの活性化: アイデア出しやチームビルディングにおいて、対面でのコミュニケーションが不可欠と考える企業が多いです。
  • 企業文化の維持: 新入社員への企業文化の浸透や、チームの一体感醸成にはオフィスでの交流が重要視されています。
  • マネジメントのしやすさ: 特に従来のトップダウン型マネジメントに慣れている企業では、従業員の業務進捗を直接把握したいというニーズが強いです。

ベトナム人のリモートワークに対する意識

では、ベトナム人従業員自身は、リモートワークについてどのように考えているのでしょうか?

リモートワークを支持する声

特に若年層や都市部のホワイトカラー層を中心に、リモートワークへの支持は依然として高いです。

  • ワークライフバランスの重視: コロナ禍でリモートワークのメリットを経験したことで、プライベートの時間をより大切にしたいと考える人が増えました。
  • 通勤ストレスからの解放: 先述の通り、都市部の交通渋滞は深刻であり、通勤がないことのメリットは計り知れません。
  • 柔軟な働き方への期待: 個人の生産性を最大限に引き出すためには、働く場所や時間の選択肢が必要だと考える人が増えています。
  • キャリアアップの機会: 国内外の企業問わず、より柔軟な働き方を提示する企業に魅力を感じる傾向があります。

オフィス出勤を好む声も

一方で、オフィス出勤を好むベトナム人も少なくありません。

  • オンオフの切り替え: 自宅だと仕事とプライベートの区別がつきにくく、集中しづらいと感じる人もいます。
  • 同僚との交流: ベトナム人は社交的で、同僚とのランチや仕事終わりの交流を重視する傾向があります。オフィスは単なる仕事場ではなく、社会的な繋がりを築く場でもあります。
  • 自宅環境の問題: 家族が多く住む家やインターネット環境が不安定な地域では、リモートワークが難しい場合もあります。

ベトナムにおける多様な働き方の未来

ベトナムにおけるリモートワークの状況は、まさに過渡期にあると言えるでしょう。コロナ禍で一気に加速したリモートワークは、その利便性が多くの人々に認識されました。しかし、企業文化やマネジメント層の意識、さらには国民性といった要素が絡み合い、単純な「オフィス回帰」だけでは語れない状況です。

今後、ベトナムでは、企業の規模や業種、さらには各従業員のライフスタイルに合わせて、より多様な働き方が選択されるようになるでしょう。リモートワークとオフィス出勤を組み合わせたハイブリッドワークが主流となり、従業員のエンゲージメントと生産性を両立させる最適なバランスを見つけることが、各企業に求められる課題となるはずです。

ベトナムの働き方がどのように進化していくのか、今後も注目していきたいと思います。

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